読了目安:約4分(1879文字)
部下が指示通り動いてくれない。
そんな声を、小さな会社でも耳にすることがあります。
それは激しい怒りというより、どこか諦めに近い、乾いた嘆きとして語られることが多いように感じます。
「あんなに丁寧に説明したのに」
「なぜ、当たり前のことが抜けてしまうのか」
そう考え始めると、私たちは無意識のうちに一つの二択に立たされます。
自分の指示の出し方が悪かったのか。
それとも、部下の能力が足りないのか。
自分を責めて伝え方のスキルを学ぶか、相手を諦めて管理を強めるか。
しかし、このどちらを選んでも、事態が根本から好転することはあまりありません。
問題は「指示」でも「能力」でもない
そもそもの原因は、そこにはないからです。
問題は「やり方」や「能力」の前に、もう一段深いところにあります。
そもそも二人の間に、「共有された前提」は存在しているのか。
話は、ほとんどそこに集約されます。
確認のない指示は「伝えたつもり」になる
私たちは指示を出すとき、「言葉を発した」という事実だけで、つい安心してしまいます。
けれど、確認を伴わない指示は、コミュニケーションとしてはかなり心許ない状態です。
相手がどう受け取ったのか。
どこまで理解したのか。
どんな前提を置いて解釈したのか。
それを確かめないまま終わる指示は、「伝えたつもり」になっているだけかもしれません。
「伝えた」と「伝わった」の大きな隔たり
「伝えた」と「伝わった」の間には、想像以上に大きな隔たりがあります。
確認作業とは、その隔たりを埋めるための行為です。
部下が「勝手な解釈をする」と感じる場面も、よくあります。
しかし構造を分解してみると、多くの場合、そこに悪意はありません。
悪意がないからこそ、問題は見えにくく、ややこしくなります。
部下は「空白」を自分なりに埋めている
指示の中に存在する情報の抜けや曖昧さ。
その「空白」を、部下が自分なりの経験や常識で補っているだけなのです。
どの程度の完成度を求められているのか。
他の業務と比べて、どれくらいの優先度なのか。
この作業の先に、どんなゴールがあるのか。
こうした前提は、言葉にしなければ共有されません。
「そのくらい分かれ」「察しろ」というのは、説明ではなく期待値に過ぎません。
部下は指示を聞いた瞬間、自分に見えている世界の中から、足りない情報を必死に補完します。
つまり彼らは「言うことを聞かない」のではなく、「自分が理解した前提に従って、きちんと動いている」のです。
ただ、その前提が、あなたの持っているものと少し違っていただけ。
それだけのことなのです。
確認の仕方を間違えると、話はオペレーションになる
ここで少しだけ、確認の仕方について触れておきます。
確認が大切だと聞くと、何でも復唱させればいいと考える人もいます。
メモを取らせればいい、という人もいるでしょう。
しかし、それを機械的にやり始めると、話はコミュニケーションからオペレーションの領域に入っていきます。
復唱の落とし穴
機械的な復唱は、いわば注文を繰り返すファミレスの接客のようなものです。
それ自体が悪いわけではありませんが、目的を取り違えると、相手の思考を止めてしまいます。
確認の本質は、オウム返しをさせることではありません。
「私はこう理解しましたが、ズレはありませんか?」
そうやって、相手の頭の中にある地図を一度、表に出してもらうことです。
逆に、部下が確認を求めているのに、それを面倒くさがるのであれば、問題は部下ではありません。
メモの落とし穴
メモについても同じです。
メモを取らせること自体が目的になると、「メモのためのメモ」で終わってしまいます。 作業の標準化が必要であれば、その部下自身にマニュアルを作らせるのも一つの方法です。
簡単な手順リストでも構いません。
これは単なる仕組み作りではなく、書かれた内容を突き合わせることで「見えない前提のズレ」を可視化する共同作業になります。
一緒に作る過程で、どこを理解していないのか、どこが共有できていないのかが自然と浮かび上がります。
相手を疑う前に、前提を疑う
指示が通らない。
思い通りに動いてくれない。
そんなとき、相手の能力や自分の性格を疑う前に、ひとつだけ問い直してみてください。
「今、私たちの間に、共有された前提はあるだろうか」
その問いを挟むだけで、言葉の選び方は変わります。
指示が通らないとき、まず疑うべきなのは相手ではなく、前提の共有そのもの。
そこに静かに目を向けることから、コミュニケーションの結び目は、少しずつ解け始めていくはずです。
本人のスキルや能力に目を向けるのは、その後で十分です。
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