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「気をつけます」を禁止する。――ミスを「構造」で防ぐための引き算
ミスはなくなりません。
これは、最初に言い切っておいたほうがいい事実です。
どれだけ経験を積んでも、どれだけ注意深くても、ケアレスミスは起きます。
実際、偉そうなことを言っている筆者自身、今でもミスをします。
だからこそ、ミスが起きたときに「次からは気をつけます」で終わらせるのは危険です。それは改善でも反省でもなく、ただの「感想」に近いからです。
「気をつける」という言葉の甘い罠
「気をつけます」という言葉は、使う側にとって非常に便利です。
なぜミスをしたのかを論理的に分解しなくていいし、仕事のやり方(構造)を変える手間もありません。
「気持ち」の問題にするだけで、次も同じやり方のまま続けられてしまいます。
しかし、その代償として、仕事はどんどん精神論になっていきます。
「確認不足だった」
「注意が足りなかった」
「ダブルチェックを徹底します」
これらはすべて、人の負荷を増やしているだけで、作業の構造は一切変わっていません。
人の注意力という、一番あてにならない不確定な要素に、すべての責任を負わせている状態です。
「脳」ではなく「物理」で識別する
かつて、一つの事務所の中で4つの異なる会社を同時に運営していた時期がありました。
それぞれの会社で、扱う書類も、対応すべき電話も異なります。
一瞬の判断ミスが大きなトラブルに直結する環境で、筆者は「自分の注意力」を一切信じないことに決めました。
やったことは単純です。
まず、会社ごとにファイルの色を始め、会社ごとの文房具全てを完全に色分けました。
「文字を読んで中身を判断する」という脳のプロセスを捨て、視覚的に「この色はA社」と一瞬で識別できるようにしたのです。
電話機も、あえてバラバラの機種を揃えてありました。
なんだそんなことかって思った方もいるかも知れませんが、これさえやっていない構造設計思考ではミスは減らせません。
形が違えば、手に取った瞬間の触感で「今、どの会社の人間として出るべきか」が体に伝わります。
これらは、いわば「物理的な制約」です。
「間違えないように意識する」のではなく「間違えようがない状態」を先に作ってしまう。
脳のメモリを消費せずに済む仕組みを整えることで、初めて現場は安定します。
作業を増やすのではなく、判断を減らす
ミスが起きると、つい「チェック項目」を増やしたくなります。
しかし、項目が増えるほど一つひとつの確認は形骸化し、逆に判断のコストは上がっていきます。
構造的な解決とは、足し算ではなく引き算です。
作業の手順を増やすのではなく、判断の回数を減らす。
注意点を増やすのではなく、迷いどころを消す。
極端な話、「気をつけることを禁止する」という発想から始めたほうがいい場合すらあります。
「気合でカバーする」という選択肢を奪うことで、ようやく頼るべき「仕組み」が見えてくるからです。
誠実な設計、静かな現場
ミスをゼロにしようと努力することと、ミスが起きにくい構造を作ることは、まったく別の話です。
「次からは気をつけます」と肩を落とす前に、目の前の景色を眺めてみてください。
そこには、色分けされていないファイルや、同じ形のペン、あるいは複雑すぎるフォルダ階層が並んでいないでしょうか。
本当の改善とは、担当者の気合を足すことではなく、業務の構造を一段、書き換えること。
それは自分や他人の能力を諦めることではなく、人間の特性という現実を直視した上での、誠実な「設計」なのです。
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