「速さ・早さ」の正体は、加速ではなく「減速しない構造美」

作業の速さより、減速しない環境
仕事が速い人を見ると、処理能力が高いとか、手が速いとか、そういう印象を持たれがちです。
でも、実際には、作業そのものの速さよりも、別の要素が効いていることが多いように感じます。 それは、速く動いているというより、減速しない環境を先に作っている、ということです。
たとえば、欲しいものがどこにあるかが決まっている。
- ファイル
- 素材
- テンプレート
- パスワード
- 過去の履歴
「ここに行けばある」と決まっている状態です。 この状態だと、探す時間が発生しません。
探す時間がないということは、作業の流れが止まりません。 止まらないから、結果として速く見えます。
思考を消耗させる「捜索」の時間
逆に、どこに何があるかわからない状態だと、作業の途中で“捜索”が始まります。
- あれはどこだったか
- パスワードは何だったか
- 過去のデータはどこに保存したか
この捜索は時間だけでなく、思考のリソースも消耗します。 流れが切れ、集中が切れ、判断も鈍ります。 結果として、速さも品質も落ちやすくなります。
ここから見えてくるのは、仕事の早さは能力だけで決まらない、という構造です。
「型」があるから迷わない
もう一つ、速い人に共通しているのは「型」があることです。
こうなったらこうする
この依頼が来たらこのフロー
この制作物ならこの順番
このように、次の一手が決まっています。 だから迷いません。 迷わないから手が止まりません。
例外が来ても、戻る場所があります。 型が崩れないから、全体が崩れません。
整理すると、こうなります。 「探さない。 迷わない。 崩れない。 」この三つが揃っている状態です。
減速ポイントを先に消す
仕事が速い人は、作業速度を上げているというより、減速ポイントを先に消しています。
探す、迷う、やり直す。 この三つが起きにくい構造を持っている。
たとえばパソコンのデスクトップ。
フォルダやファイルが無秩序に並び、どこに何があるかわからない状態だと、毎回探すことになります。
しかもPC自体の動作も重くなりやすい。 環境そのものが減速要因になります。
逆に、フォルダ分けや配置が決まっていると、取り出しに迷いがありません。 欲しい時に、決まった場所から取り出せる。 これだけで作業の流れが止まりにくくなります。
能力ではなく「配置」の問題
ここで言いたいのは「整理整頓をしましょう」という話ではありません。
仕事が遅くなる原因が、能力や努力ではなく、環境や配置にある場合も多い、ということです。
- 速く動こうとする前に、 探さなくて済む配置になっているか。
- 迷わなくて済むフローがあるか。
- 崩れても戻れる型があるか。
この三つを整えるだけで、速さと品質が同時に変わることがあります。
筆者がこの構造を好むのは、20代のころ、大手電機メーカーのものづくりの現場で叩き込まれた「5S」が身体に残っているからかもしれません。
5Sとは:整理、整頓、清掃、清潔、躾。
あれは大きい会社だけがやる特別な儀式ではなく、仕事を止めないための当たり前の仕組みでした。
世界のトヨタをはじめ、製造業では当たり前に見えるこの考え方は、デスクワークでも同じです。
必要なものが必要な場所にある。次の一手が決まっている。例外が来ても戻れる型がある。 それだけで、スピードも品質も安定していきます。
習慣化が標準化をつくる
最後に、5Sのいちばん大事なところだけ補足します。
5Sの最後のSは「躾」です。これを、習慣のSだと思っています。
躾けるから習慣になる。 習慣になるから標準化できる。 標準化できるから、品質がぶれない。 ここが肝です。
この5Sは、仕事が早くなるだけではありません。質が保たれます。
製造業の現場で学んだ5Sは、まさにこの感覚でした。
だから「探さない・迷わない・崩れない」は、気合いの話ではなく、習慣と標準化の話です。
速さと品質を両立させたいなら、まず環境と型を整える。 その入り口として、5Sは今でも十分に効く考え方だと思います。



