個人事業主の価格設定|相談業がお客の財布事情や感情で価格を決めてはいけない理由

意思決定を鈍らせる「懐勘定」の正体
コンサルタント、カウンセラーなど、相談業務を主軸とする個人事業主やフリーランスにとって、避けては通れない、かつ最も多くの人が足踏みを強いられるプロセスがあります。「価格設定」です。
本来、価格とは提供する価値や事業の継続性から導き出される数値であるはずです。しかし、いざ提示する段になると、
「この金額では相手にとって負担が大きすぎるのではないか」
「今の景気では払ってもらえないのではないか」
という思考が頭をもたげます。
このように、相手の支払い能力を勝手に推測し、それに基づいて価格を上下させてしまう思考を、本稿では「懐勘定(ふところかんじょう)」と定義します。
この懐勘定こそが、サービスの質を損なわせ、事業主の意思決定を鈍らせる構造的な欠陥の入り口となります。
なぜ、多くの人がつい懐勘定をしてしまうのか
相談業における「価格への迷い」は、しばしば優しさや配慮として肯定されがちです。
しかし、構造的な視点から見れば、相手の財布事情を案じて価格を下げる行為は、プロフェッショナルとしての「傲慢」に他ならないと考えるからです。
なぜなら、相手がその対価を払えるかどうか、あるいはその投資に踏み切る価値があるかどうかを判断する権利は、あくまで顧客側にのみ存在するからです。
提供側が勝手に「この人には高いだろう」と限界を決めてしまうことは、相手の課題解決に対するコミットメントや、リソースを捻出する主体性を低く見積もっていることと同義です。
売買の本質は、感情的な共感ではなく「解決への合意」です。
顧客が抱える課題が深刻であればあるほど、その解決には相応のコストがかかります。
そのコストを正しく提示しないことは、解決への道筋を不透明にし、結果として顧客が本来得られるはずだった成果を遠ざけることにつながります。
「相手が払いやすい価格」を優先する設計は、一見すると親切に見えますが、その実、提供者自身が「断られる痛み」から逃げているという構造が隠れています。
これは顧客への配慮ではなく、自己防衛の手段として価格が利用されている状態です。
意思決定を鈍らせないための「メニュー設計」の論理
価格設定において感情や迷いが入り込むのは、価格が「その時の気分や相手との関係性」という変数に依存しているからです。
この不確実性を排除するためには、価格を「決断」するものではなく、あらかじめ定義された構造から「算出」されるものへと置き換える必要があります。
具体的には、以下の二つの視点をメニュー設計に組み込みます。
第一に「原価積み上げ」の視点です。
相談業における原価とは、単なる時間給ではありません。その時間に到達するまでに費やした学習コスト、経験値の蓄積、そして事業を維持するための固定費。これらを客観的な「資産」として捉え、一単位あたりの提供価格に正しく転写します。自身の技術や経験を、属人的なスキルではなく、市場に投下する「資本」として定義し直すことで、感情が介入する余地を物理的に削ぎ落とします。
第二に「投資回収」の視点です。
顧客がそのサービスを受けることで、将来的にどれだけの損失を回避し、どれだけの利益(あるいは精神的安定や時間の創出)を得るのか。この「顧客側のリターン」から逆算して、適切な投資額を算出します。
例えば、年間の損失を100万円防ぐための相談であれば、その対価が30万円であることは合理的な投資判断となります。
このように、算出の根拠を「自分の懐」でも「相手の懐」でもなく、「構造的な資産価値」と「解決の市場価値」に置くことで、価格提示の際の迷いは霧散します。
価格が「質」を担保するインフラであるという視点
適正な価格(往々にして、それは主観的な予想よりも高い数値になります)を維持することは、単なる収益確保の問題ではありません。
それは、顧客に最高のパフォーマンスを提供し続けるための「インフラ整備」です。
低単価での受注が常態化すると、事業主は数をこなす必要に迫られます。結果として、一人ひとりの顧客に割ける思考のリソースが分散し、サービスの質は低下します。
さらに、余裕のなさは焦りを生み、本来必要な「俯瞰的な視点」を失わせるという悪循環を招きます。
一方で、適正な対価を受け取る設計ができている場合、事業主は自己研鑽や環境整備に再投資する余裕を持つことができます。
また、顧客側も「相応の対価を支払った」という事実により、サービスを主体的に活用しようとするコミットメントを促す「心理的強制力(または心理的ハードル)」が働きます。
つまり、価格とは単なる数字ではなく、提供者と受容者の双方が最高の状態で課題解決に向き合うための、規律としての役割を担っているのです。
価格設定は「感情的決断」ではなく、構造からの「算出」であるべき
相談業において、価格を提示する瞬間に手が止まるのは、あなたが優しいからでも、自分に自信がないからでもありません。価格設定のプロセスが「個人の意思」に依存しすぎているという設計上の問題です。
相手の財布事情という、自分にはコントロールできない変数に意識を向けるのをやめ、まずは自らの提供価値を客観的な構造へと分解してみてください。
価格は、相手との関係性を測る物差しではなく、事業というシステムを健全に稼働させるための設定値に過ぎません。
そこから感情を切り離し、冷徹なまでに「算出」された数字を受け入れること。それが、自分を、そして顧客を尊重することの第一歩となるはずです。
この「視点」をさらに深める
「相手の財布を案じる」というズレを修正した次は、「誰に届けるか」という入り口の構造を点検してください。価格設定の正解は、この「フィルター(構造)」の精度によって決まります。
👉失敗しない為の「顧客フィルター」の選び方
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今回の「価格設定」を含め、ビジネス全般における停滞を、根性論や感情論ではなく構造で解き明かすロードマップはこちらにまとめています。
👉集客・営業:構造的解決ロードマップ

